ついに 彼らがやって来た。
私はこの日が来るのを本当に待っていた。
道種院の人達が 海を越えて新井城にやって来たのである。
水仙の大きな花束を抱えて 太田和さん、尾形さん、佐藤さん、宮内さん、川崎さんの五人のおじさんが車から降りてきた。
800年前、500年前、安房へ渡っていった三浦一族の人々か。
皆で新井城跡を歩いた。
冷たい風に吹かれて 青く澄み切った荒井浜海岸に立つ。
三浦道寸の供養塔を囲む。海の音を聞きながら私は500年前の夏の日の道寸と新井城の落城の話をした。
それから 私達は道種院の話をした。
荒れた無住の三浦一族の寺 道種院を見つけて心痛めた二年前。
寺の須弥壇の下から正木公の馬の鞍や元禄時代の鰐口を見つけた一年前の衝撃の日。その時、私はある人に言われたのである。
「あなたは封印を解いた。このままではすまないよ。これからこの寺は変わるよ。どんどん良くなるよ、道種院に人が集まってきれいになるよ。見ててご覧。」
私はその意味が分からなかった。
無住の道種院はお金が無かったし、相変わらず梵鐘を無くした鐘楼は大きく傾いて、塀は崩れかけ、寺の軒下は破れて、華の曼荼羅の天井はハクビシンかアライグマの尿の染みの数を増やしていたから。
打つ手はあるのか?寺でコンサートを開いてお金を集めたらどうだろうかとムトウ君は言った。しかしそんなこと出来るだろうか。何よりも私は道種院の部外者である。
当たるような気がする そう言ってニイムラさんは道種院のために10枚の宝くじを買ったが全部外れた。
昨年の暮れ東北の工事を終えた宮大工のムトウ君が山梨に帰る途中私の家に寄ってくれた。
道種院に寄ってみたら杉の小道の道幅が広くなっていたんですよ。あ、これでクレーンが境内に入れるから鐘楼を直す工事が出来る!ヤッター!って俺思ったんです そう言って彼は笑った。
鐘楼を修理するお金は道種院には無いのよ。第一 梵鐘も無いのよ?と私も笑って、でも誰が何のために道を広げたのかなぁ と二人で首を傾げた。
その訳を道種院の皆はこう言った。
これから人が大勢道種院に来るのです。だからマイクロバスが境内に入れるように道を広げたんだ、重機を使って私が と尾形さんが言った。
マイクロバス?どうして人が道種院に来るのですか?
アダチさん、道種院がきれいになってから見てないでしょ。きれいになったよ。皆は嬉しそうにくすくす笑った。
これから道種院を花の寺にするのさ!
皆で花の木を植えている。
参道の階段の両側にダーッとつつじを植える!もう「千本つつじの寺」という看板を私が作ったんだ まだ二百本しか植えてないけれどこれから千本になる。
蠟梅も五本寄付された。
そして桜で埋めるのだよ。河津桜、ソメイヨシノ、ボタン桜....桜が次々と咲いて三月から五月まで桜で埋まる。桜が咲いたら真っ赤な毛氈を敷いて茶会をやる。琴の演奏付でね。檀家は500円。その他は千円だ。我々は年を取った。だから急がねばならない。
やっぱ千円取るってぇのは高すぎないかよ?おじさん達は嬉しそうにがやがやした。
道種院が花で埋まる.....そういうことだったのか。
淡い桜の花に包まれて 花びらが雪のように散る....
春のうららに濃淡の桜の花に埋まった寺が目に浮かぶ。
私も桜を植えて良いですか?前から道種院に桜の木を植えたかった...本当よ。
喜んで!あんたは奇特な人だ!
どの桜にしようかな?私はこの桜が好きなのですけれど、とポケットからハンカチを出した。その日の朝ポケットに入れたのは私の好きな桜の花のハンカチだった。
ハンカチを皆の前に広げた。
これはボタンだ!関山というボタン桜だよ。良い桜だ。最後に咲くのだよ。
私は関山を五本植えることにした。
河津桜が咲いて、ソメイヨシノが咲いて、皆を見届けるように最後に私が咲いて そして散る。
五人のおじさんは夕日で薔薇色に染まったフェリーでカモメ達を引き連れてに安房へ帰って行った。

翌日この不思議な話をクワナさんの奥さんに話した。
道種院に桜の木を植えるの?良いことするわねぇ!木は生命力を与えてくれるのよ、あなた元気になって長生きするわよ 本当よ。
あ、私も娘が丈夫じゃないから、元気になるように娘のために二本桜の木を植えるわ、そう言ってお財布から3000円を私に「お願いね」と言って渡したのである。
来月私はクワナさんの娘さんの分と 雪国で病と闘っているクミコさんの分と合わせて9本の桜 関山を植えに行くことにした。
その頃は道種院の里は梅の花が咲いていると思う。