昨晩携帯に電話があった。
三浦道寸研究会会長のコンドウさんだった。
あのさ、安達さん白髭神社に願掛けしてたでしょ。まだやってんの?
この間の日曜日に終わりました。22日間ね。一日500円のお賽銭で。
あー、終わったの.....ここでちょっと二秒ほどの間があって、近藤さんは電話の向こうでククと声にならない笑い顔になったと思う。
キノドクだったねぇ。あれ、取られたらしいよ。
あれって?
あれさ、お賽銭。
どうして!?
この辺にいるんだよ、賽銭泥棒が。海蔵寺さんも言っていただろう、取られたって。いるんだよ、こまめに賽銭箱から小銭を取っているのが.....。どいつかはだいたい見当がつくんだ。安達さんは一日500円だったでしょ。狙われていたみたいよ。そいつにとって500円ははすばらしかったと思うよ。
どうやら白髭さんを管理しているセキモトさんが賽銭箱を開けたら何も入ってなかったらしい。
どうやって取るのかしら?難しいですよあそこからお金取り出すのは。あれをひっくり返すんだろうか?どっしりといかにも重そうで古い賽銭箱を思い浮かべながら言った。
どうするんだかねぇ、棒の先に粘着テープでも付けて取るのかねぇ。
あー.....最後の日は五千円をぽち袋に入れて名前と住所書いて入れたの。
エエッ!ナニッ!!五千円!!ぽち袋に.....。それが一番取り出しやすかっただろうね。キノドクに、と繰り返してコンドウさんはとうとう笑い出した。
私は頭にきた。賽銭泥棒じゃなくてコンドウさんに。どーして早く言ってくれなかったのよ。言ってくれたら知恵をこらして絶対取られない工夫をして賽銭箱に入れたか、そいつをとっ捕まえたものを。あ、でもコンドウさんは賽銭箱が空だったのを聞いたばかりね。
ね、コンドウさん、そいつを捕まえましょうよ。神社に張り込んで。
やだよ、賽銭泥棒を捕まえるなんて、と笑いながら断られた。
電話を切ってから考えた。私は賽銭箱に賽銭を入れた。それから願掛けた。
お賽銭はその時点で白髭さんの所有になった。
つまり私の賽銭を取られたのではない。ここではっきりしておこう。白髭さんのお金が取られたのだ。
しっかりしてよ、白髭さん。おじいちゃん。
こんなことで大丈夫?私の願掛けも忘れちゃったんじゃない?
賽銭泥棒か.....
なんという...急に猛烈なおかしさがこみ上げてきて私は一人涙が出るほど笑ってしまった。