淡路島で五年の修行を終えた娘は、一年半一人親方として横須賀で仕事をした。独立してからは日曜日も働きづめで休んだ日はほとんど無かった。
この不況に仕事をもらえるなんてありがたいこと、と言っていたのに 今度は京都に修行に行くと言い出した。どうして?こんなに仕事があるなら、その中で腕を磨けば良いのに....と思うが娘には娘の考えるところも思いもあるのだろう。
ボンタンと呼ばれる職人用の裾を絞ったズボンをはき、汚れたシャツを着て髪を一束にまとめた娘は年頃の娘らしくおしゃれをするわけでもなく 爪も染めず 化粧もせず 無駄をそぎ落としたその姿はこれまでに無く素敵に見える。六年半の間に いつの間にか 娘はすっかり職人の顔になっていた。
なぜ?と問うこともせず、朝方の三時に軽トラックで京都に向かう娘を玄関で見送った。いつもながら あっさりした娘である。あっさりした親でもある。
修行は続くよ どこまでも。
夜の闇の残る玄関で残された親は 祈るだけ。
ただ ただ 無事であれと。
娘は 娘の夢を追え。
母は 母の夢を追う。