三月一日。
私たち三浦道寸研究会の六人のメンバーは久里浜港からフェリーに乗り房総半島を目指した。コンドウ会長と陶芸家のカユリさんは道種院に行くのは初めてである。
道種院を調査に行った私達の若いメンバーのムトウ君とエンドウ君とヤマダ君の三人はは床下に入って正木氏の殿様の馬の鞍や元禄時代の鰐口や仏像を見つけたのだった。それは道種院の寺宝であった。
ちょうど一年前のことである。
山に挟まれた雨上がりの長狭街道は春の匂いがした。
水仙の花が咲いている。
梅の花がが少しほころびかけている。
雨でぬかるんだ道種院の境内には白い軽トラックが何台も並び、檀家の人達が御前様もいらして、すでに十人近く待っていた。
実はその一週間前に私は一人で道種院を見に来たのだった。
うっそりと寺を覆っていた杉の木立は切り払われてカラリと明るくなった寺の様変わりに驚いてそれから私は一人で笑ったのだった。なんという変わり方だろう!
この一週間で さらに敷地は開拓され、見下ろす寺の丘の裾野には桜の苗木が並んでいるのが見える。
アッという間にここまでやるとは 道種院の檀家の人たちはなんと恐るべき人達だろう!
桜を植えた後、11時から宴会になって2時半までお酒を飲んだ。
私は本当によく笑い、エンドウ君はひどく酔っ払った。
これから交流を深めましょう!と言って道種院を後にした。
クワナさんの予言は当たった。
この寺はどんどんきれいになってゆく。
私はこの寺に毎年春になると来るだろう。
私の桜はどんなに大きくなっただろうかと確かめに。
私の桜はどのくらい花をつけただろうかと確かめに。
十年後の春
私は桜の花に囲まれたこの寺の丘に立ち
この花の寺 道種院への私の使命が完了したことを確認するだろう。