三浦三郎山から梨沢大塚山へ。
ここまでは馬の背中のような細い尾根を降りて行けばよかったから問題はなかった。
梨沢大塚山の山頂も広やかな感じがするが見晴らしは良くなかった。
山頂には小さな石宮や可愛い如来様が崩れかかって並んでいる。
さあ、ここからは、里まであと少し。
ところが、これが凄かった。
道は次第に細くなり、倒れた竹が行く手を阻む。
荒れ放題の道である。
ぬるぬると滑る粘土質の斜面の道はほとんど無くなり、足の置き場も無い。行く手は枯れた竹が散乱して塞がって右側は崖。
あー、これ、道じゃないよ!とうとう道に迷っちゃった!戻ろうよ!!狐だ。狐!戻ろう。ヤバイ ヤバイ ヤバイ
ここで待ってろ、と言って夫が竹をかき分け偵察に進む。
と、天空からドバドバ ドバドバと何者かが空を駆け抜けた。
ザワーっと木が揺れる。
アレは?イノシシ? 違うな、上を飛んだ…
夫が戻ってきて言った。あれは鳥だよ、鳥。
鳥じゃないってば、あんな大きな音がしたもの。トンビのはずないわ。
それとも鷹?
トンビか鷹かどうか知らないけれど、鳥だよ。ここでは音が大きく聞こえるんだよ。
鳥じゃないってば。天狗よ。天狗だ!天狗って本当にいるんだって。
いいから、早く来い。この道でいいんだ。
またおそるおそる前進。
新品のキャラバンシューズは泥まみれになった。
靴の裏にくっついた粘土はツルツルと滑り、谷間に滑り落ちないように、枯れた竹に手をかけると竹はスッポリと抜けたりして、手掛かりが掴めない。
やがてロープを渡した場所にたどり着いて命綱を握りながらようやく脱出した。100m位あったろうか。
そこは道が土砂崩れで崩落していたのであった。
ようやくアスファルトの道に降りた。
「ア、車だ」「車が走っている」現世の車が走っているのが妙に懐かしく嬉しかった。
随分長いこと異界の山の中をさまよっていたような気がする。
泥で重くなったキャラバンシューズを引きずって梨沢公民館、昔の梨沢分校に置いてあった車にたどり着きスニーカーに履き替える。キャラバンシューズの裏にはそれぞれ500g位の粘土がどっさり付いていた。
暫く割りばしで靴裏の粘土を取るのに没頭する。
実に不思議な世界を歩いてきた。あの道は異界ではなかろうか。
面白い体験だった。けれど、一人で行っちゃいけない場所だ。
面白かった。猿もイノシシの出なかったけれど。
夜スズキさんからメールがあった。
本日は本当にお疲れさまでした。
午後5時から寝て午後11時に起きました。足の調子は順調です。
本日最高に面白いと思ったのは安達さんとご主人の関係でした。
女房が勝気で気が利いている。
一見、ご主人は振り回されているようです。
ですが実は女房の好きなようにさせている。
私の家とそっくりです。