このアパートの前の細い道は真直ぐ行くとそのまま「行ってはいけない危険な地区」に繋がる。
この道を真直ぐ100m歩くとその場所になる。
だから、夕暮れ頃から女達、怪しい男達がここまで流れてくる。
夜の女は一目でわかる。
きつい化粧。下着のような服にハイヒール。
笑わないきつい眼差し。
手首から背中、首、足首まで色とりどりの入れ墨をしている女、男。
真っ黒な黒人は鮮やかなブルーのアイシャドー、ブルーの口紅。
年は良く分からないが、10代から40代の幅があるように見える。
夕方の7時頃から彼女は道に出る。ここは日が長いので10時近くまで夕暮れの明るさはある。
アパートの窓から彼女たちを見下ろす。
どんな事情で今の境遇があるのだろうか。
高校を卒業して、何かしらの職業を得て、恋愛をして、結婚して、母となって…
ごく普通なささやかで穏やかな生活をすることができなかった事情があったのだろう。
年をとったら、病気になったら、その時イタリアは彼ら彼女らを助けてくれるのだろうか。
今、ヨーロッパは難民問題に揺れている。
海辺の「海の博物館」に彼らがアフリカから地中海を越えてヨーロッパに辿り着いた難民船が展示してあった。それは8mほどの小さな傷だらけの屋根の無い木造船だった。
何本かの水の入っていたペットボトル 。ここに小さな子供から大人まで溢れるほどぎっしりと乗り込んで、命がけで助けを求めてヨーロッパに渡って来たのだ。
彼らの助けを拒んでは、次は私達の心が腐敗してしまう。
人を損得で考えて 今まで良い結果があっただろうか。
人が人としてある為には 助け合うという道しかないと私は思うけれど。
アパートの窓から傷ついた夜の女達を見送る。