海を渡って金谷港に着岸する。
朝から強烈な光が照り付ける残暑だった。
一時過ぎに見性寺に到着する。
屋根葺き替え工事は完了し美しい銅葺きの屋根が夏の光りの中で光っていた。
真夏に天井裏に登る厳しさを私達は忘れていた。
八月に天井裏に登るなんて、無謀だったわね。
うっかりしたなぁ…と屋根を見上げる。
見性寺のご住職は本堂の建具を全て開けて待っていてくださった。
最も暑い夏、昼過ぎの銅葺き屋根の表面温度は80℃ぐらいにはなっている筈だった。
天井裏の気温は50℃くらいはあるだろう。
大丈夫?
大丈夫です。そう言って、ムトウ君は頭にタオルを巻き、地下足袋を履いて天井裏に入っていった。
ムトウ君、大丈夫?
大丈夫です。
何回かそんなやり取りをして、やがてムトウ君のヘッドランプの光りが揺れながら降りてきた。
無かったです。
天井は一度形を変えましたね。昔は入母屋だったかもしれません。その時、棟札が無くなってしまったのだと思います。そう言ってとどめなく流れる汗を拭った。
残念だったわね。
残念ですね。でも仕方ないですよ、450年も経っているのですから。10年に一回茅葺の葺き替えをしたとすれば、40回は人が天井裏に入っていますよ。無くなるのも不思議ではないです。
そんなものだよ。夫が言った。
汗と黒い埃だらけになった服を着替えてから、ご住職のトノキさんと少しお話する。
トノキさんはまだお若い。
ムトウ君のアメリカの話を聞く。
アメリカの建設中のお寺も見性寺も禅寺で、従って共通する二人の禅寺の話題も多くて楽しく耳を傾ける。