その夜は鴨川の海辺にある民宿に泊まった。
海辺の民宿の夕ご飯はお刺身たっぷりを頂きながら
私達はムトウ君のアメリカの話を聞く。
それで どうだったの?
仕事はどこまですすんだの?
仲間はどんな人?何人?
その人って どんな人?
その素晴らしい人って いつからアメリカに暮しているの?
宿舎はどんなの?プレハブ?
食事はどうしてたの?
お昼ご飯は?
それで アメリカで何を思ったの、ムトウ君は?
聞いても聞いても聞き足りないアメリカの物語
三カ月過ごしてムトウ君に見えてきたアメリカという大国の光りと陰。国土を覆う人種差別の気配。
そこで出会った素晴らしい日本の人達の生き様を語る。
少し痩せたムトウ君は、しかし一回り大きく見えた。
暑さにやられて疲れ果て、三人は早めに寝る。
夜中の二時半に目が覚めた。
東の障子が淡く青い光を放っている。
障子を開けると眩しい三日月と星。
眠れずに三時にそっと民宿の玄関の鍵を開けて
海へ向かった。
三日月とオリオン座と絢爛たる大粒の星達
私は防波堤の上で月と星を見る
月と話す
月を取り囲いて星達は輝く
ダブーン ザァー
ドッブーン ザザァー
防波堤の上に仰向けに寝転んで 単調に繰り返す潮騒に耳を澄ましていると
小さな小石がシャラシャラと波に転がる音まで聞こえてくる
月は静かに右へと移動する
天空をゆっくりと回転する絢爛豪華な星達よ
さんざめく饒舌な月と星達よ
暑くもなく 寒くもない
何て贅沢な 夜だろう
あれこれ思いながら眠りに入って 目が覚めると、東の海の上がほんのり紺青色に明るくなっている
ぐんぐん明るくなって
ついに今日の太陽が海から上がってくる
太陽があたりを明るくすると
魔法は 氷のように溶けて
鮮やかな夜は色あせ 星は消え
風景は 夏の日常になった
カラスが鳴きはじめ
蝉が鳴きはじめ
車が走りはじめて
海辺の町の 普通の夏の日が始まった