雨が降る上野へ行った。行く先は東京国立博物館。
「びょうぶで遊ぶ」というテーマで長谷川等伯の「松林図屏風」を最先端の映像で体験させるという面白い企画をやっていた。等伯の「松林図屏風」は私の大好きな日本画である。
屏風の前に敷かれた畳に座って「松林図屏風」を見る。
次第に暗くなって、屏風を囲う湾曲した巨大なスクリーンに墨絵の風景が浮かびあがって来る。
春 桜が咲いて 花吹雪
秋 風が吹いて木の葉を散らし 雁行して飛ぶ雁の群れ
冬 雪が降る 雪は激しく 私達を包む
あ、鳥の影が!
鳥はこちらにぐんぐん近づいてくる
まさか あれは? もしかして…
ついておいでと言うように羽ばたいて
やっぱり モンちゃんだね!
私達は モンちゃんの後を追って空を飛ぶ
私の目は 鳥の目になって山を見下ろす
そして 海を飛ぶ
やがて 海の向うに松林が見えて来た
松林へぐんぐん近づいて
私達は 松林の中に入った
鳥たちは屏風の中の松の枝に止まって
それから再び スクリーンの松林の中へと 楽しそうに飛ぶ
モンちゃんは仲間が出来た
いつの間にか
私達は 等伯の松林図の中に入り込んでしまった
海の音 風の音 松の枝はふっさりと海風に揺れる
手のひらの中で死んでゆくモンちゃんと
見つめ合って過ごした長い夜
約束したことが 二つあった
一つは 私が死ぬときはきっと迎えに来てね
もう一つは モンちゃんの鳥の目を私に下さいってね
あ、約束じゃないね お願いだ
鷹になった紋ちゃん
ありがとう
モンちゃん 一緒に空を飛べたよ
幸せな 一日だった
ありがとう
今日 私は日本のアニメーションは芸術の域に入ったと確信した
五月に見た「バベルの塔」の展覧会も素晴らしかった
私達が絶対に入り込めない筈の二次元の絵の中の世界
日本のアニメーションの技術がその扉を開いた
最先端の映像技術はどこへ私達を連れて行くのだろう
雨に煙る上野の森の中 アダムに言った
「月の道 (三浦一族百年の物語)」の小説を書き終えたら
水墨画を描いてみたい
傘の中でアダムがつぶやいた
ジオラマの次は 水墨画 ですか