現場に運ばれたタモの集成材を見て溜息をついた。
こんなに荒れていると思わなかった....。
材木屋のトラックに積まれたそれはザラザラと毛羽立っていて紙やすりで磨いただけではとうてい使い物にならなかった。
安達さんの言う金額ではここまでしか出来ないんだよ、運んできてくれた材木問屋のノゾエさんは気の毒そうに言った。
予算の無い現場の決められた金額の中で何とかやりくりしようと無理した結果がこれだった。
困り果てて大工の塩谷さんに電話する。
今、自分は東京の現場だけど、横須賀に帰ってから作業小屋で機械にかけて磨きますよ。
夜?何時頃?
8時ころには行けると思う。
真っ暗な三浦の畑の真ん中にぽつんと建つ作業小屋に明々と灯が灯っている。
材木を運んで8時に塩谷さんと会った。
ごめんなさい、こんなことになって....。
良いですよ、大工の仕事とはこんなものです。
そう言ってから、はい、これ。ポケットから温かいペットボトルのお茶を取り出して私に手渡してくれた。
塩谷さんお夕飯食べたのですか?
いえ、食べちゃうとやる気が出なくなるから食べないのです。
手伝いますね。ポケットから軍手を取り出して言った。
大丈夫ですよ、と若い塩谷さんは笑った。
結局後は塩谷さんに任せて小屋を出た。
高台の広い畑の真ん中で車を止めた。
満月だった。
車を止めた時、流していた曲は偶然にも夏川リミの「月の虹」だった。
車のエンジンを切ってライトを消し、外に出る。
私の仕事は全て塩谷さんのような職人達がいてくれてこそ成り立つ。
私の段取りの悪さを引き受けてくれた塩谷さん。暗い畑にぽつんと光る作業小屋で塩谷さんは今夜何時まで仕事をするのだろう。
青い月の光を浴びていると、情けなくて申し訳ない気持ちが温かい感謝の気持ちに変わっていった。
車に寄りかかり月を見上げて美しいその曲を聴く。
月の虹 願う夜に 独り 浜辺に降りれば
夜を呼ぶ 風の中に たなびく光
月の虹 願う夜に 想い 舞い降りれば
天を行く 風の跡に たなびく光