イタリアの旅で最初びっくりしたのは便座が無いことだった。
最近は便座も増えたなぁと思うようになってきたが便座が無いことも多いのである。
飛行場、ホテルなどはほとんどあるが、田舎へ行くほど そして南へ行くほど便座は無くなって来る。
トイレの個室に入ってみたものの、便座の無い便器に座る勇気が出なくてそのまま出てきて我慢することもある。
電車の中のトイレにも便座が無いことが多くて、これは絶対座るのは嫌である。
考えてみても欲しい。日本の汽車便に、あなた座れますか?
イタリアの人は旅する時マイ便座を持ち歩くという冗談、冗談ではなくて分かるなぁ。私だって荷物にならなければ折り畳み便座を持ってゆきたいもの。
だから 夫がトイレに行って戻ってきた時は「あった?」と聞く。
さてトイレはどこにあるか。
駅とバールである。バールとはコーヒーの立ち飲み屋のことで、トイレを借りるために一口で飲めるエスプレッソ一杯2ユーロくらいで飲む。ただで借りるのはやっぱり気が引けるから。トイレに入っていいですか?と聞くと鍵を渡してくれる時がある。不思議な国のアリスが持った あのクラシックな柄の長い鍵である。中に入ったら中で鍵を掛けるために使うのである。
この鍵でひどい目にあったことがあった。シチリアのおしゃれなレストランでトイレに入った時のことである。シチリアは田舎だから例のごとくクラシックな鍵を渡してくれた。
さて用を終えて出ようと鍵を回したが......
使い慣れない年代物の古い鍵は回らないのである!
何十回試みても鍵は回らず、誰もトイレに現れない。
「アユート!アユート!」(助けて!助けて!)とドアを叩いた。
やっと気がついてもらって ドアを開けてもらった時は涙が出ていた。
これをご丁寧にも二度もやったのだった。
ローマのアンティカの古代遺跡を見に行った時面白い物を見た。
大理石の床の周りに大理石のベンチが壁に沿ってぐるりと回っている。ベンチには直径20cm位の穴が等間隔で10個ほど並んで開いているている。その部屋は二つに仕切られていた。
なんと古代、紀元前の公衆便所の遺跡だったのである!
入口には、銭湯の番台のようなものがあってそこで入ってきた人にお尻を拭くための海綿を渡した。
男と女はそこで銭湯のように分かれて男子トイレ、女子トイレに入った。
穴を覗くと下に水が流れる配水路があった。
水洗トイレだった。
古代の公衆トイレの真ん中に立ってあれこれ想像した。
穴と穴の間には木の壁とかカーテンとかで仕切りはあったのかしら?
ここに入れるのは貴族だけだったのかしら?
お金取ったのかな?いくら位したのかな?
海綿はまた洗って 再利用するのかな?
トイレの事情は今とさほど変わらない。
駅のトイレは大きい駅になると清潔だけれど1ユーロから2ユーロ払わないと入れない。だからその駅のプラットホームの端っこはとてもオシッコ臭いのである。
イタリアの便器の形ははとても美しい。
日本のTOTOやINAXのようにプラスチック製の馬鹿馬鹿しいほど機能満艦飾の無粋なダサいウォッシュレット付きなんて使わない。だからビデが並んでいる。
便器はタンクすら無くすっきりとほれぼれと絵になるほど美しい。