ヴェローナの街には古代ローマ時代の円形競技場がある。
毎年夏の恒例に連夜そこでオペラが上演されている。
日本でオペラを観賞するのは無理だった。夜中に東京から電車を乗り継いで二時間かけて帰宅するエネルギーは無いし、何しろ何万円と言うチケット代は値段が高すぎた。
ところがヴェローナの円形競技場はホテルから歩いて三分。
しかも、日曜日のプログラムはヴェルディの「アイーダ」という。
スケールの大きい「アイーダ」は聞いてみたかった。
そんなわけで上から二番目に高いチケットを買う。
円形競技場の周りはオペラの舞台の大道具が山ほど並べられて心をそそる。クレーンで競技場の中に入れているようだ。
ところが、着て行く服が無い。
夫はポロシャツにチノパンと靴でまあなんとかなるかもしれないが、問題は私だった。
夕方近くになると会場近くのレストランは正装した人で溢れる。
スーツ、ロングドレスにハイヒールとゴージャスなアクセサリー…
私はユニクロのジーパンとTシャツ、それとゴム草履だ。ビーズが付いていると言っても、どう見てもゴム草履。
成田へ向かう横須賀の自宅を出てから今日までこのスタイルだったし、チケットを買ったオンライトチケットから「フォーマルなスタイルで来るように」とメールが入ったのは日本を出てからのことでもう遅かった。
やっぱり何かそんな雰囲気の服を一枚持ってくるのだったと悔やまれる。
安物でかまわないから派手なアクセサリーも一つあったらなぁ…
買えばいいかもしれないけれど、そのために買うのも、なんだかアホらしくて…
口紅もないし、今困っている。
あと二時間したら行かなくてはならない。
シンデレラの心境。