この旅でもやはり真夜中の咳は出る。
セドナで治るかなぁ、と期待したが真夜中の二時に咳が治まらず、目が覚めた。
夜になると咳が出る。これは喘息かもしれない。
キッチンでお湯を飲んで咳を鎮めて、またベッドに戻ったが寝付けない。
ダイニングに戻って本を読み、外が白々としてきた時に散歩に出た。
鳥の合唱。小さな茶色いウサギ。インディアンの霊的なサークルが大地の上に石をならべて迷路のよう。
ゆっくりとサークルの中を歩く。これ以上歩いて迷子になったらまずい。
コンドミニアムに戻ったが、まだ五時。
何もやることが無かったので、朝食のパンを切る。
サラダを作って、ベーコンを切って、ジャガイモを切ってスープを作る。
さて‥‥どうするか。次に卵を割って、ミルクを少し入れてオムレツの準備。
六時半にマリーが二階からおはよう!と元気に降りてきた。
キャベツたっぷりののスープを作ろうと張り切って降りてきたのに、鍋にできていたのはジャガイモのスープ。
そうだ、マリーがキャベツのスープを作るということになっていた‥‥
万事休す。
マリーの楽しみの仕事を奪ってしまい、会話の続かない気まずい朝食が始まった。
夕食にも私は失敗した。
私が出したのはアマノフーズのインスタント雑炊。
旅が残り少なくなってきたので持って来た食材は消化しなくては、と簡単に考えた。私とアダムの二人旅はいつもこの程度のいい加減な発想だし、アマノフーズの雑炊は私達にとって、旅のとっておきのご馳走なのだ。
これが食事について哲学的一家言のあるマリーを怒らせた。
ピエールに諭された。マリーがキャベツのスープを作るつもりであったのに‥‥なぜクリスティが?
アダムに叱られた。マリーが作りたかったんだよ。
私はマリーに謝った。ごめんね。
マリーは言った。クリスティは言うこととやることが違う!キャベツのスープを私が作ることになっていたじゃない。
それに、あの夕食は今までの人生の中で一番味気なかったと、マリーは涙を流した。
ホント‥‥インスタント雑炊ではね。ごめんね。
キャベツのスープと、インスタント雑炊で私は二度も続けてマリーの逆鱗に触れたのだ。
謝って仲直りしてから、マリーの指示のもと、男性二人と私の三人が動くことが一番良いことが分かった。
マリーが作れば美味しいし、四人で働く方が断然楽しい。
これは大人のままごとなのだとマリーは言った。
お母さん役のマリーと三人の良い子の大人のおままごと。
マリーは生き生きと嬉しそうに、たっぷりキャベツのスープを作り、キャベツのスパゲッティを作り、残ったスパゲッティで翌日のサラダを作り、スイカの皮で塩漬けを作り、スイカの「冬瓜ふうスープ」を作ったのであった。
それから、冷蔵庫の中を点検し、セドナ出発の朝食までの食材完全食べ切りの見事なレシピを書き上げた。
個人旅行するならば、なるべくキッチン付のコンドミニアムをお勧めする。
その土地の食料品店に入る楽しさ。
その土地の珍しい食材を知る面白さ。
その土地の家庭の食生活を垣間見る面白さ。
食費は外食の半額ほどで済む。
裸足で食事が出来て、楽である。
全員がお酒を飲める。
そして、全員で買出しに行って、全員で食事を作って、全員で後片付けすること。大人のままごとが個人旅行の自炊の醍醐味の一つである。
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