連日、猛暑が続いている。
横須賀の海に近い高台にある低層マンション群の5階に住むKさんの南二部屋のフォーム工事をした。緩やかな丘の上の、Kさんの家の南の窓から、水色の三浦の海が良く見える。
海を背景に、大きなクレーン車や重機が動いて、その団地の一角のマンション四棟が解体中だった。
遠くだから、解体する音はここまで聞こえない。
それは 光る海を背景に静かで不思議な光景だった。
その解体中のマンションの五号棟に私達家族は暮らしていたのである。
結婚してから息子が中学一年生になったばかりの頃までだから十四年間そこに暮らしていた。
息子が中学一年生になった時、ささやかな家を建て、そこを離れた。
もう24年も昔のはなしである。
解体中のマンションは夫の会社の社宅だった。
完成したばかりのそのマンションに結婚したばかりの私達は入居した。
やがて息子が生まれ、三年後には娘が生まれた。
同じような年齢の夫婦ばかり入居したから、同じような年齢の子供達が次々に生まれて、マンションの前の駐車場には大勢の子供達が群れて走り回って遊んでいた。
私達若い母親は、入り口の階段に並んで座り、子供達の遊んでる様子を眺めていた。
夕暮れ、あたりが暗くなるまで遊びまわった子供達は、額に汗を光らせる
サヨナラ、サヨーナラ!マタネー!と踊り場で叫びながら
手を振りながら
アシタモ 遊ボーネ!と叫びながら
子供達は 母親と階段を上がっていった。
鮮やかに蘇る幼い子供達の汗の匂い。
子供達の笑い声。
このマンションにいた十四年間。
夫と結婚して、息子が生まれて、そして三年後に娘が生まれた。
ここで、私達の家族が出来た。
ここは、私の家族の劇的な舞台だった。
横須賀市長沢94 グリーンハイツ 2-5-403
私は昼休みに、そこへ行ってみた。
既に五号棟は、Aさんの住んでいた部屋の一階のベランダ一つを残して瓦礫になっている。
あの頃と変わらぬ蝉しぐれ。
蝉の声に包まれて その風景を見る。
ここは私達の家族の、夏の舞台であった。
惑いながら、それでも夢中で生きた
私の暑くて濃い夏の舞台は 今消えてゆくところ。