水族館は冷房が効いていた。
中に入った時はその涼しさが気持ちよかったが、そのうち寒くなってきた。
変な寒さだった。
水族館から市場へ行こうと言うことになって地下鉄へ向かうあたりから足が重くなって歩くのがとても難儀になって来た。
市場ではやっと歩く。
それからは汗ぐっしょりになって壁に手を当てて階段を上り、アパートの部屋に入ったとたんベッドで横になった。物凄い汗だ。
体温は40度近くになった。風邪は治っていなかったのだ。
タンの絡む咳をして、水を飲んで、鼻をかむを繰り返す。
数十年に一度の40度の熱である。
私は暑くてもほとんど汗をかかなくなっていた。
しかし、イタリアで40度の熱を出してから、私はひどい汗かきになったのだった。
まるで、新陳代謝が悪くなって汗が流れなくなった汗腺にどっと汗が流れたことにより、再び汗が流れるようになったようだ。
良かったじゃん。夫が言った。新陳代謝が良くなったんだよ。
翌日、私はアパートで静かに過ごすことにする。
夫は一人で王宮や貴族の館などを見に街へ出て行った。
路地から上がってくる人々の話声、子供の泣き声、笑い声、犬のほえる声が、遠くの雑踏の中からくっきりと聞こえる。30分毎に鳴る教会の鐘の音。
石畳、石の家に挟まれた路地の音は大きく反響して枕元まで響くのだ。
名跡史跡巡りが私の旅ではなく、ここ異国の港町にいることそのものが旅なので、こうしていても退屈はしなかった。
とぎれとぎれに眠って夢を見て、夢の合間に色々なことを考える。