昼下がりの冬の陽は 海に光の道をつけた
綺麗な海ですね
ええ、この窓を見て 主人はこの部屋に決めました
ナカジマさんはそう言って 微笑んだ
日が沈む頃
この部屋の壁が 赤く染まるのよ
あの薔薇のような色に染めるでしょう?
私は ご主人の写真の前の薔薇の花を 指さした
私の事務所もそうでした
日が 海の向こうの伊豆半島に落ちる10分間
私の事務所の 二階の壁を 薔薇色に染めました
お隣に家が建つまでの一年間
冬の陽は 薔薇色に染めた
薔薇色のステンドグラスの教会の中のように
10分間だけね
ナカジマさん 「薔薇が降る」という詩を知っていますか?
知らないわ
ヒメネスの「プラテーロと私」という詩です
プラテーロは ヒメネスの飼っていたロバの名前
夕日が壁を薔薇色に染める時
私は いつもその詩を思い出しました
今度 その詩を持ってきます
天国の七つの回廊から
地上に向かって
いま 薔薇の花がまきちらされている
ほんのりと色ついて
温かく雪が積もるように
薔薇の花が教会の塔の上に 木々に積もる
ごらんよ
どんなにあらあらしいものでも
薔薇のよそおいで優しくなってしまうのを
また降りしきる 降りしきる 降りしきる薔薇よ
君のその目はね プラテーロ
おだやかに空を見上げるその目はね
君には見えないけれど
美しい二つの薔薇なのだよ
「プラテーロと私」から
薔薇が降る
ナカジマさんのご主人は
海の道から やって来る
今日もこの窓に 薔薇の花束を届けにやって来る
朝になったら
私はヒメネスの詩を白い封筒に入れて
中島さんのポストに入れて来よう