私がテルイさんと知り合ったのは、お客様のチエさんの家だった。
今から13年前だった。
テルイさんという若い大工は外壁を杉の木で鱗張りにするという怖ろしく手の込んだ事をしていた。デザイナーのチエさんの仕事場となるサンルームを増築中だったのである。
手が込むほど、楽しそうな仕事ぶりに惹かれて、私は小網代の事務所建築をテルイさんに頼んだのである。
その時、テルイさんはお父さんから独立するところだった。
「バナナ工務店」にしようと思うんだけれど。
え?バナナ。どうしてバナナなの?
おかしくない?バナナって。
もっといい名前があるんじゃないの?
お父さん、怒らないの?
チエさんと私の反応は悪かった。
でも「バナナ工務店」になった。
皆が覚えてくれるから、と言って。
親父は怒った。友達からバナナかよ、と言われたよと言った。
チエさんがトラックのデザインをした。
これがまた、素晴しく風変わりな絵だった。
一度見たら目にこびりついて忘れられない…
最初は青いトラックにバナナと、何故か鰐。
今は白いトラックに、やはりバナナと鰐。
バナナ工務店の軽トラックはとても目立った。
あれから13年。
「バナナ工務店」は三浦で有名になった。
テルイさんを知らなくても、トラックは皆が知っている。
横須賀のサッシ屋のマツウラさんも言った。「俺、見たことあるますよ」テルイさんの戦略は当たったのである。
テルイさんは三浦の人気者だ。
でもそれは、バナナだけのせいではないと私は思う。
いつも穏やかで、決して怒らず、ユーモアがあって、善意に満ちている彼の人が愛されるのだと思う。
私はテルイさんと仕事が出来る事を自慢している。
私も独立して25年。
テルイさんを含めた魅力的な職人さん達のチームは私の宝物。